町工場二階空目薬工房

KOICHI FURUYAMA


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C.W.ニコル講演「イヌイットと私」(5)

ラウダ先生が若い頃、西の北極で8千年前にマンモスを追いかけて来た人々の発掘をしてたんです。その時にマンモスの子供の牙が出たんですね。それには人間が作った道具の傷跡があったんです。そして同じ層には石で出来た小さな道具のかけらがあった。だから、この動物は人間が獲ったという証拠にはなるなと。

彼が小躍りして、一緒に行ってたイヌイットの年寄りに、「ほら見て。こんなでっかいセイウチの牙は見たことないだろう。」と。冗談のつもりだったですよ。その年寄りが怒って、「馬鹿、お前は。これはセイウチじゃないよ。形が全然違うじゃないか。」と。「この層には貝があったか?ないだろう。これは陸の動物だ。お前はカイファルクゥエを知らないのか?」と。その年寄りは字が読めない。本も読んでない。テレビがない。ラウダ先生は、「カイファルクゥエって何ですか?」と。その年寄りは彼のノートを取って、サササとマンモス描いたんです。8千年前の動物の形と名前は知ってる。僕はこの話しを彼から聞いて、頭の中に入っちゃった訳。

その探検の後、僕は一度日本に行ってから、バフィン島でアザラシの調査してました。私も26になって、7回目の探検でした。そこで5軒の家族がキャンプしてたんです。春でした。よく吹雪が来た。

大きなテントがあって、そのテントで、おばあちゃんが子供達に話しをしてたの。そのばあちゃん、入れ墨あったんですね。もう見れませんよ、カナダ北極で。彼女90いくつだろうな。あやとりを取りながら、海の神様の話しとか、色んな話しをしてた。それで僕が座って、「ばあちゃん、カイファルクゥエって知ってるか?」と。彼女「えっ?」って。「カイファルクゥエって知ってますか?」「何、カイファルクゥエ?」「昔、動物。」って言ったら、「あー。あんた発音が悪い。ケーフェルキー。」方言が違うんです。

それで、びっくりした。あやとりでマンモスを作った。どうやって、8千年の歴史を残すのかと思ったんですよ。縄文人がどんな歌、歌ってた?どういう服を着たかちょっと分かる。酒飲んだか?飲んでなかったか?我々分からないですよ。ピラミッドを作る4千年前ですよ。

そのばあちゃんが子供達に話しをした。カイファルクゥエは昔の動物。男が男の肩の上に立てば、それはカイファルクゥエの肩の高さ。ジャコウウシと同じ様に、人間が攻めると肩を合わせて自分達を守る、子供を守る。もの凄い大きな牙があったと。それで、長い黒い毛があった。その毛はとても丈夫でこの位長い毛だった。それを編んでロープを作ったりしました。それで柔らかい茶色の毛があった。それはおむつに使ったり、ブーツの中に入れたり、色々と使いました。でも人間が賢いから、それを獲ってましたよ。

どうやって獲ったかと。カイファルクゥエは目が悪い。でも鼻がとってもいい。それでハンターが自分のアノラックを持って、カイファルクゥエの真ん前だったらあんまりよく見えないから、斜め横の辺でアノラックをバタバタして、「ホーホーホー!」と言うと、カイファルクゥエのでっかいのが、その内に怒ってパッとそこに向く。そしてハンターがアノラックを落としてサッと逃げる。そこからまた別の人が「ハーハーハー。」それで行ったり来たりする。疲れます。その内に後ろの腱を切ったり、銛で腹刺して引っ張ったら内臓が出る。その内に疲れて死ぬ。長い間、他のケーフェルキーが動かない。ずっと鳴いてます。でもしばらくするとみんな去って行く。そして人間がそれを使った。

あっ・・・。私は今でも・・・8千年前ですよ!おばあちゃんが昨日の様に話ししてた。これは文化だなと思いました。但し、2回目のあの辺の探検に行ったら、おばあちゃんは居なくなったんです。そしてカナダ政府の命令で、子供達はみんな学校に行かなくちゃいけないんです。だから猟で生活してた人々がみんな集まった。ハンターが何百人。そうすると猟はほとんど出来なくなって、文化が滅びた。それも見ましたね。

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